2014年1月5日日曜日

神谷美恵子『生きがいについて』みすず書房(神谷美恵子コレクション)、2004年。


 本書はここ数年、授業で取り上げてきた。昭和の時代の精神科医、神谷美恵子(1914~79年)の代表作と言ってよい著作であろう。彼女がハンセン病療養施設・長島愛生園でハンセン病の人たちの「生きがい」について行ったアンケート調査が素材として用いられているが、(太田雄三氏などの研究によると)神谷美恵子自身の手記なども引用されているらしいし、それ以外のさまざまの人の文章が引用されている。心理学的な手法による、哲学的人間論風の著作と言えるのではないだろうか(その点がいわばこの著作がすこし捻じれている点かもしれない)。特にハンセン病療養者について言えば、さまざまの社会的・身体的な善を奪われた人の、いわば「裸の魂」における「生きがい」が取り上げられていると言えるだろう。

 本書は、第56章を転回点として、前半部分と後半部分に分けることも出来るように思うが、前半部分では、いわば順風満帆な人生の、一般的・世間的な生きがいが中心に論じられるのに対して、後半部分では、人生の苦境を経ての、新たな精神化された「生きがい」の再発見について論じているとみることが出来よう。特に、打ちひしがれた心が、「心の構造の組み換え」を経て、精神的な生きがいを再び見出すプロセスで生じうる「変革体験」についての記述が興味深い。神谷美恵子自身がかような「変革体験」をし、また本書中に、自らの手記から引用してその体験を記述しているようだ。

 神谷美恵子は、若い時分に三谷隆正や新渡戸稲造や叔父の金沢常雄らを通じて、キリスト教の強い影響を受けたと言われているが、本書が全体として扱っているテーマは、実は、人間のこの世での「死と再生(復活)」であるように思う。現世での「死と復活」についての論述は、キリスト教の説く、終末論的な「死と復活」を理解するうえで、示唆するところもあるのかもしれない。

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