2012年8月21日火曜日

岩本潤一訳注『現代カトリシズムの公共性』知泉書館、2012年

 日本のカトリック教会の中心部とも言えるカトリック中央協議会司教協議会秘書室に勤務する著者による翻訳と著作。タイトルから伺われるように、ローマ(ヴァチカン)を中心としたカトリック教会の現代世界の諸問題に対するオーソドックスな見解を翻訳解説している。
 第1章から3章はいわゆる生命倫理に関する諸問題を扱う。人格的生命の始期、ES細胞研究のはらむ倫理的問題、「植物状態」における胃瘻による栄養補給の問題などが取り上げられる。特に「植物状態」は終末期ではないという見解は、「尊厳死」問題と「植物状態」とがしばしば結び付けられるだけに注目されよう。
 第4章はヨーロッパなどで法制化の進む同性婚の問題と、同性愛傾向の人の叙階の問題が論じられている。
 第5章はニューエイジ運動の問題が取り上げられ、同運動が倫理的相対主義と政治的無関心を通じての全体主義化につながる危険性が指摘されている。
 第6章の裁判員制度に関しては、政教分離の点から聖職者の同制度への参加が否定される半面、一般信徒にはむしろ共同善への寄与の面で参加が薦められている。
 第7章では、カトリックの伝統的な正当戦争の理論が取り上げられるが、シリア情勢でも問題になっている「保護する責任」論への言及が重要な論点であろう。
 第8と第9章は、ヨハネ・パウロ2世教皇と、ベネディクト16世教皇の事績のまとめである。ヨハネ・パウロ2世教皇の意図したことは、回勅や書簡、談話等を通じての第2バチカン公会議の決定の「正しい解釈」の普及にあったこと、また教理省長官として前教皇に仕えたベネディクト16世教皇もその路線を受け継いでいることが述べられている。
 全体として、第2バチカン公会議以降のカトリック教会が現代世界の内で本来目指しているところを、著者独自の主張も交えながら、いくつかの現代的論点において描いており、大変興味深い。
 

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